第12話の「がんばる!!」という千歳の告白は
本心なのか……書いた本人も自信がない!?
――本作は千歳以外のヒロインのエピソードも印象深いものがありました。特に柴崎万葉と苑生百花の家族との確執を描いた回は、主人公の千歳が登場しないのが意外でした。
井畑:僕も地方出身なので理解できるのですが、夢を追いかけて意気揚々と東京に出てきたはいいけど、出てきてしまった以上はなかなか地元に戻りづらい……という心情が万葉にはあったんですね。ただ、万葉自身は声優の仕事を親に反対されていると思い込んでいますが、実は両親はそんな娘を案じている。
一方、百花は都会暮らしで両親と同居しているけど、母親が同業者なのでふつうの親子関係ではない。第7話と第8話は、万葉と百花がお互いにないものねだりをしていると察せられるように描いているのですが、打ち合わせでも一番悩んだ話数でしたね。
渡:第7話と第8話は構成として、あれがベストだということは十分理解しているんです。ただ、直前までのエピソードとあまりに違いすぎる作り方になるので、当時は「どう書くかな……」とすごく悩みました。
井畑:渡さんの言う通り、非常に難しかったと思います。万葉と百花の心情を直接描かず、でも観た人が察せられるように作るという課題を抱えた話数でしたが、「他人から見たら、自分がいる環境も悪いものではないんじゃないか」という部分はうまく伝えられたのではないかと。
渡:作品全体を通して、やんわりとした優しいあきらめのようなものが常に流れていて、その諦観をどう受容していくのか……という。本質的にはこの物語、ちょっと暗いんですよね(笑)。
井畑:八重や京の内面も掘り下げたかったし、他にやりたいこともたくさんありましたけど、1クールで描けるエピソードは限られているので、ヒロイン全員にスポットを当てて描くというのは困難でしたね。
渡:『ガーリッシュ ナンバー』の本質は“侘び寂び”なので、語らないことにこそ、語るべきことがたくさんあるんですよ。青春物語らしく、「みんなで泣いて、海辺で叫んだらよろしいがな!」というシーンが何度もあるんですけど……。まぁ、それをやらないのが侘び寂びの世界ですよね、やっぱり(笑)。僕は第12話の千歳のセリフが本心なのかも、さっぱり自信がないんですけど。
――えっ、そうなんですか? 第12話でやっと千歳が自分の想いをみんなに伝えたと思っていたのですが……。
渡:基本的にツラツラとしゃべっている時ほど、嘘だからなぁって思いません? 言葉の意味よりも、千歳役の千本木さんの演技で一瞬声が詰まったところだったり、ちょっとよれ気味になった声だったり。そういう演技の細部にこそ、真実が……意味が宿るのだと思っています。言葉の文字面に引っ張られすぎないほうがたぶん、見方としては正しいんだろうな、ということを実は伝えたいんですよ。
井畑:第12話の千歳の告白は、渡さんにかなりムチャを言って書いてもらったんです。渡さんが書いた脚本の第1稿には、特にあのような長ゼリフはなくて、AパートとBパートの分け方も今とは違っていました。そこで「ここで渡さんらしい、丸々1ページセリフみたいなものをなにか出してください」とお願いしたんです。
渡:本来、長ゼリフは僕の一番得意とするフィールドなんですけど、井畑さんからその提案があった時は「アニメでそれはNGではないか!?」と(笑)。むしろ、アニメ畑の井畑監督がその演出を許容するというのは意外でした。人物を動かさない時間が多いほうが演出的に大変なんだろうと思って、最初はテンポよく絵が入るようなイメージでシナリオを書いていたんですけど。
井畑:確かにアニメーションで描く場合、1人のキャラの長ゼリフが、絵的に苦しいのは事実なんです。でも、監督には絵をコントロールするタイプと、間やテンポやセリフをコントロールするタイプがいるのではないかと思うんですが、僕は前者かなと。なので、渡さんに好きに書いてもらって「そのセリフに持ちこたえられる絵を用意します」というほうが、やりやすいんですね。
あと総作画監督の木野下さんへの信頼は絶大だったので、彼女に頼めばどんなシーンもやってくれるだろうと。「泣いているのか、落ち込んでいるのかわからないけど、どこか哀愁漂う千歳の後姿が何秒かほしい。だから、その秒数に耐えられる、美しい髪の毛のツヤください」みたいな指示をたくさん出していました。もしかして、木野下さんも内心は「は?」と思っていたかもしれないんですけど(笑)。ちゃんと描いてくれるので本当に助かりました。
渡:テンポの話になると、先ほども第1話の演出の話が出ましたけど、よくぞこのテンポ感が出たな、と驚く話数もあれば、第11話と第12話みたいな長ゼリフをバッチリ長尺でやらせもらえるところもあって。メリハリの効いた演出で、僕の書いたシナリオに最後までつき合っていただけたのが非常にありがたかったですね。
井畑:そういう意味では、今回は各話演出を担当した方が一番大変だったかもしれないですね。この作品のルールとして、セリフとセリフの間は3コマ(=0.125秒)にしてください、みたいなことを事細かに決めていたんです。その分、作品としての統一感は出たと思うのですが、演出としての自由度はなかった。特に第6話と第8話などはガチガチにやらせてもらったので、演出さんには「ごめんなさい!」と……。セリフ回しの気持ちよさも渡さんが書く物語の魅力の1つですから。もちろん、絵も観てほしいのですが、第1話、第6話、最終話などは、絵を観ずにラジオ感覚で聴いてもセリフの響きがよいように作ってあります。
――ありがとうございます。そろそろお時間が迫ってきました。最後にファンのみなさんへメッセージをお願いいたします。
井畑:TVアニメ『ガーリッシュ ナンバー』は、非常に多面性のある作品です。観る人のスタンスによってエピソードの受け取り方が違うので、それが作品にとってプラスかどうかはハッキリと言えないのですが……。
もしかしたら、100人で観て100人が同じ気持ちになって盛り上がれる作品が最近の流行りかもしれません。でも、ある方向から観ると嫌な物事も、一歩引いてこの子の立場になって考えるとそうでもないかも……と、いろいろな視点から余裕を持って世界が見えるようになる、そんな作品だと思っています。
渡:この作品は、自分の置かれる環境が変わるたびにぜひ観返していただけるとうれしいですね。おそらく時間が経って観ると、今と全然違う感想を持つんじゃないかなと思うんです。観る人の内面が変化すれば、感想も変わる作品なので、DVDやBlu-rayをぜひお手元に置いていただいて、人生の節目節目に観賞していただければ幸いです。僕が執筆中の小説版ももう少し続きますので、ぜひお楽しみに!!
--ありがとうございました!
▲万葉と百花の抱える想いも、迷って落ち込んだ末に千歳が辿り着いた本音も、セリフ以外の部分に注目するとさらに彼女たちへの理解が深まりそう。ぜひBlu-ray&DVDで観返してみよう!
【プロフィール】
渡 航(わたりわたる)
千葉県出身。サラリーマンと執筆活動を両立させている、人気ライトノベル作家。おもな代表作は、小学館ガガガ文庫『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』シリーズ、ダッシュエックス文庫『クオリディア・コード』など。
井畑翔太(いばたしょうた)
北海道出身。ガイナックスで腕を磨き、多くの人気作で作画監督や演出を務める実力派アニメーター。TVアニメ『ガーリッシュ ナンバー』は初監督作品となる。今後の活躍が期待される若きクリエイターの1人。
CHECK▶▶▶TVアニメ『ガーリッシュ ナンバー』
声優業界を舞台にしたお仕事ストーリー。主人公は「私がモブ(端役)ばかり演じているのはこの業界が悪い!!」と考えるクズっ娘新人声優の烏丸千歳。業界にありがちな(?)オトナの事情で主役をゲットした彼女が、挫折と成功を体験する中で、仕事への向き合い方が変化していく様子が魅力的に描かれる。他にも個性豊かな美少女声優たちが登場し、水着がまぶしい沖縄旅行や柔肌が光る温泉シーンなど、愛らしい姿もバッチリ楽しめる作品。
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(C)Project GN/ガーリッシュ ナンバー製作委員会
Posted at 2017.3.29 | Category:G’sマガジン, アニメ, ガーリッシュ ナンバー